弁護士 花田勝彦
2009.1.26
私は,事務所のスタッフに,常々「依頼者のために」という意識を持って仕事をするよう話していますが,今回は,改めてその意味を考えてみたいと思います。
そもそも仕事とは,自分のためにすることではなくて,他人のためにするものです。他方で,仕事を通じて,自らの自己実現を図ること,これもまた大事なことです。
仕事をすることによって対価を得ることは,他人のためにしているからであって,自分のためにしているからではないことの結果です。
弁護士の仕事は,端的に言えば,法律を用いて,現実に起こっている紛争や社会的な問題を解決することにあります。事務局の仕事は,その補助をし,ときには前面に立って依頼者と接します。
紛争解決の結果が,依頼者にとって満足のできるものであれば,それに越したことはないでしょう。しかし,依頼者にとって満足のできる解決結果を得ることだけが,「依頼者のために」ということではないのです。例えば,いくら悪いことであっても依頼者の利益になるように動くということが「依頼者のために」ではありません。
弁護士は基本的人権を擁護し,社会正義の実現を図ることがその使命であって,仮に依頼者の利益(経済的利益)を図ることが社会正義と矛盾する場合には,社会正義を優先する使命があります。法律を武器にして,依頼者の言いなりになって,正義に反して利益を追求すれば,それは弁護士の仕事に対する信頼を失墜することになるでしょう。
他方で,紛争解決の結果が,必ずしも当初の依頼者の希望に適わないものであったとしても,打ち合わせを重ねる中で依頼者との信頼関係を構築し,依頼者に対して誠実に向き合い,説明することによって,納得してもらえることがあります。
これらの問題をクリアするためには,弁護士としての見識が必要になってきます。弁護士としての見識とは,日々起こる問題に対する価値判断をいうのであって,幅のある概念であり,また,経験を通じて得た価値観によって,変化するものでもあります。我々は,問題に直面したときに,その都度どうすべきかという判断に迫られるのであって,その判断のベースとなるのが価値判断であり,弁護士としての見識であるということになります。
法律を扱うテレビ番組に複数の弁護士が出演し,弁護士それぞれの答えが分かれるということは,今では受け入れられるようになったと思いますが,当初は,奇異な感じを持たれたのではないでしょうか。弁護士が法律問題に直面したとき,答えが分かれるというのは,法律の解釈適用ということが幅のある問題であり,その弁護士の価値判断によって異なるからであって,ある問題を法律に当てはめれば,数学の公式のように答えが出るということではないことからすれば,当然のことです。
我々弁護士は,価値判断を磨いて,弁護士としての見識を高めていかなければなりません。そのためには,社会における様々な事柄に興味を持ち,謙虚に人の話を聞き,好奇心をもって自分にとっての未知の分野を学び,自分に取り入れて行く必要があります。その実践が,弁護士の見識を高めていき,適切な法律の解釈適用を行うことに繋がっていくはずです。
それは,自分を磨くことと同時に,他人のためになることでもあります。
冒頭申し上げた,他人のためにすることと,自分のためにすることは,相反することではなく,結局は同じことなのだと思うのです。
他人のためにすることと自分のためにすることが同じ?と禅問答のように考えこんでしまうと,答えが出なくなってしまうかも知れません。もう少しわかりやすく言えば,他人のためにする(という意識を持つ)ことによって,自分自身も高められるのだ,と考えるとどうでしょうか。
依頼者に起こっている問題を解決するという仕事をするにあたって,法律を解釈適用する,そのために弁護士としての見識を高める,それが依頼者の問題解決をよりよいものとし,結果的には自分自身の向上にも繋がって,依頼者からの信頼も得られる,というサイクルを作っていくことになるはずです。
だからこそ,出発点は,依頼者のために,であって,自分のために,ではないのです。
そのような出発点となる意識をもつことができれば,自然と謙虚に人の話を聞くことができるようになるでしょうし,相手に対する思いやりを持つことができるようになるでしょうし,何にでも興味を持ってトライできるようになって行くのだと思います。
当地は弁護士の数が増えたとはいうものの,まだまだ弁護士過疎地域であり,依頼者は弁護士と接することが少なく,相談に訪れること自体が敷居の高いものです。紛争を抱えた依頼者に対して,我々の接し方一つで,それが救いの神となることもあれば,新たな心労を抱えることにもなりかねないことを肝に銘じて,今年もがんばっていきたいと思います。
いつもうまくいくとは限らないかも知れませんが,「依頼者のために」ということは,仕事を続けていく中での自分自身の永遠のテーマとして,持ち続け,実践し続けていきたいと思っています。


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